2008年2月12日
歯性上顎洞炎(某歯科医院のインプラント失敗例に遭遇して)
おはようございます。Dr.森嶋です。今回は歯性上顎洞炎(某歯科医院のインプラント失敗例に遭遇して)に関して書かせていただきます。
上顎洞炎の原因としては、上顎の歯根と上顎洞の底部は接近していますので、虫歯とか歯根の炎症が歯根部から上顎洞に波及して上顎洞炎を起こすことがあります。放置しておくと、歯根と上顎洞との間に穴(瘻孔)があき、瘻孔から膿が出てくることになります。または、インプラントの手術時や抜歯などの時の上顎洞粘膜損傷による細菌感染があります。片側だけの場合が多く、頬部の痛み、歯痛、悪臭のある鼻汁が出ることが特徴で、X線写真やCTスキャンで診断がつけられます。
耳鼻咽喉科、口腔外科で上顎洞の手術を行い、必要があれば歯科で歯根部の治療をすることになります。
ある患者様から某歯科医院でのインプラント手術後の頬部の痛みに関して相談がありました。X線写真に上顎洞に落ちたフィクスチャーが確認できました。手術中に上顎洞内に圧入したものと思われます。術後期間が長く上顎洞炎が慢性で軽度であるために投薬して経過を見て、必要があれば母校の口腔外科に紹介する旨を御説明しました。
インプラント手術を含めて外科手術には常にリスクがつきものです。ですから無理のない安全なインプラント手術を行うことを信条にしてきました。25年間、問題なくインプラント手術を行ってきましたが、今回のことは私にとって、慢心することなく今以上に慎重に手術する良い警鐘でした。
2008年2月 9日
2次象牙質
虫歯を治療した後に痛みが出て不安な患者様が来院されましたので、エックス線写真を撮って診査しました。
エックス線写真から、治療前の虫歯は神経に近い深い状態であった可能性が高く、治療行為の刺激のためか、細菌感染のために歯の神経が腫れたと思われます。 深い虫歯の治療では、治療後に痛みが増し、熱いもの、冷たいものが滲みたり、硬いものを噛むと神経にさわるような不快な感覚が出ることがあります。そのため森嶋歯科医院では、深い虫歯の治療の際には、最終処置として詰め物をする前に神経の炎症・感染防止の治療をしていますし、2次象牙質(歯髄に新たに形成される石灰化層)の形成促進処置もしています。
日常の治療時には、無痛治療を心がけています。加えて、深い虫歯の治療には治療後の滲みたり、噛むと神経にさわるような不快な感覚を予防するように、全治療において治療後の不快感の防止に配慮しています。
2008年2月 6日
人間学
歯科関係以外で私が一番愛読している本は、ロゴセラピーの創始者であるビィクトル・フランクルの「夜と霧」です。次はいくつかありますが、高島 博先生の「人間学」も愛読書の一つです。高島先生は「人間学」の中で、「一たび医学が人間性を見失いだすと、医師が診療するのは苦しんでいる人間ではなくて、人間存在を離れた病気だけということになる」と、現代の物質優先主義的見方に警鐘しています。私も歯科医療の世界に同様な危惧を感じています。
歯科医は、口という体の狭い一器官を専門に治療します。ですから局所的に考えがちです。そして入れ歯や冠などの代用臓器を用いて、物質的に修復しますから物質優先主義的見方に偏りがちです。私は幸いにも口腔外科が専門でしたから「全身の中での口腔」を考える訓練を受けられました。その私でさえロゴセラピーに出会わなければ、今のように患者様を苦しんでいる人と見ないで、患者様の虫歯や歯槽膿漏ばかりに関心が集中したと思います。
ある親知らずを抜くことを希望された患者様が来院されました時、彼女は私の治療方針の説明に安心したのではなく、私の会話の中のユーモアにホッとしたようです。ユーモアの大切さも高島先生の「人間学」から学びました。治療は真剣にならざる負えませんが、できる限りユーモアの溢れる診療姿勢で患者様をホッとさせたいと願います。
2008年2月 3日
ターミナル・ケア
患者様とお話していますと、私と会う前に診療をうけた歯科医者と違った印象をもたれる多くの方がいらっしゃいます。一番の理由は私が患者様を「単なる物=肉体」として見ているのではなく、「人=心をもった存在」として感じているからだと思います。大学病院時代にターミナル・ケアにたずさわったことで学ぶことができました。
ターミナル・ケア(Terminal Care)とは、末期がんなどに罹患した患者に対する看護のことで、終末(期)医療、終末(期)ケアともいわれています。主に延命を目的とするものではなく、身体的苦痛や精神的苦痛を軽減することによって、人生の質を向上することに主眼が置かれ、医療的処置加え、精神的側面を重視した総合的な措置がとられます。
私は、ターミナル・ケアの思想が特殊なものではなく一般医療にも適用するものだと考えています。特に、苦痛が伴う歯科医療においては精神的側面を重視した総合的な措置が必要だと思います。技術優先の現代医療において、少しでも人間回復を目指した歯科医療を行いたく希望します。
2008年1月31日
インプラントの予後
患者さまからインプラントの予後に関しての御質問もありましたので、ここに私の考えを簡単に書いてみます。
私の臨床では、25年前に手術したインプラントが現在も問題なく機能しています。インプラントの予後に関しては、患者様側の諸条件と術者側の技術レベルが複雑に関与していますので簡単にはいえませんが、通常の条件下では20年から30年は機能可能だと考えています。
インプラントを長期間機能させる術者側の一番大きい要因は、インプラント植立の手術技術ではなくて、咬合を安定させる技術レベルの有無にあると思われます。インプラントを用いた咬合再構成は、インプラントにかかる噛み合せの圧力をいかに垂直にさせるかなど、非常に熟練を要します。インプラントに側方圧をかける歯軋りなどを解除する咬合調整技術などは、術者側の必要最低限度の技術だと考えています